聞き語り「お釈迦様のお弟子たち」石上みね著より

古代インドの人々の間では、輪廻転生の思想がありました。地獄・餓鬼・畜生・修羅・人間・天の六つの境界を我々は、ぐるぐると生まれ変わり死に変わりして経巡るというのです。過去世の業の結果として現在の境界があり、現世の業によって未来世の境界が決まるという善因善果・悪因悪果の道理に基づくのが、輪廻転生の思想です。現世の自己の在り様は皆前世の行いの結果であると考えていました。人間として生まれても、余りに情けない行為を重ねれば来世には地獄界にも餓鬼界にも生まれる可能性のあることを意味するのだそうです。
  科学的な根拠があるのかと言われれば、あるともないとも答えようがないでしょう。何しろそう信じていたのですから。その課題に明快に答えてくれたのが中国の学僧・天台大師です。六道は私たちの心の状態を象徴するというのです。

地獄ーー怒りによって社会から孤立した状態
餓鬼ーー名利や人の好意を貪る状態
畜生ーー心が愚痴に覆われて因果の道理が分からなくなった状態
修羅ーー他人にへつらい、自分をどこまでも甘やかす状態
人間ーー心が平静に戻った状態
天ーーー天にも昇る喜びに満たされた状態

この六つの境界はいずれも迷いの世界であるとされます。この心理的な解釈は、近代人の間でも広く支持されています。
        聞き語り「お釈迦様のお弟子たち」石上みね著  弟3巻  大蔵出版より抜粋